補陀落ばしり物語

歴史研究の修練の果てに、満を持して送る、著者入魂の時代小説!

 

 補陀落ばしり物語

 

      中嶋 隆

 

 

2020124刊行 四六判・並製 240頁 本体予価1600円ISBN978-4-910154-01-5 C0093

 

 時は江戸宝永年間、富士山大噴火と大地震の巷から船出した三度の渡海の物語──西方浄土に向けて、僧を小舟に閉じ込め、熊野灘の荒海に流す、世に名高い補陀落渡海顚末。

 果たしてそれは、大破局の地獄絵から衆生を救う捨て身の行たりえたのか。親殺しの汚名と、裏切りと、人肉食の破戒……俗世の底の底をうごめくものたちが、渡海のはての仮死の境で目にしたものとは。

 生きとし生けるもの、ことごとくに仏性が具わる。世間知を破り、人間の条件すら踏み抜いたとき、そこに光と呼び声が……。

 小説・破局をくぐる信と愛と光と。

 

「あとがき」より

 

 私は、 ……古代・中世の補陀落渡りを、元禄末・宝永期のこととして、この物語を書いた。市井の人々の生命と信仰とが、そこ に凝縮していると考えたからである。この時期には、小田原城が倒壊した元禄大地震、四国・近畿に大被害を及ぼした宝永大地震、さらに富士山噴火と、天変地異が続いた。未曾有の大災害のさなか、信仰心を持ち続け、煩悶しながら生きた人々が、この物語の主人公である。

著者紹介

 中嶋 隆(なかじま・たかし)

1952, 長野県生まれ. 国文学者, 専門は西鶴を中心とする近世文学. 早稲田大学教授. 『西鶴と元禄メディア』(1994, 『初期浮世草子の展開』(1996, 『西鶴と元禄文芸』(2003, 『西鶴に学ぶ』(2012)など, 歴史専門書・歴史読み物など多数. 「歴史への招待」(NHK教育テレビ)で講師を務める. 2007, 『郭の与右衛門控え帳』で作家デビュー, この作品は第8回小学館文庫小説賞受賞. 他に, 潜伏キリシタンを描いた時代小説『はぐれ雀』などがある.